読むことで英単語を覚える、その実際の仕組み
読書から語彙が増えるのは事実ですが、条件が二つあります。同じ語に何度も出会うことと、その文章がもともとだいたい読めること。片方でも欠けると、読んでも増えません。
母語の語彙の大半は、誰かに教わったのではなく読書や会話の中で勝手に増えていきます。これを偶発的習得と呼びます。外国語でも同じことは起きます。ただし母語のときほど自動ではなく、二つの条件が揃ったときにだけ起きます。
条件は、同じ語に何度も出会うことと、その文章がもともとだいたい読めることです。二つ目のほうが軽く見られがちですが、実際にはこちらが欠けているせいで失敗している人のほうが多い。
条件その1 — 一度では足りない
知らない語に一度出会って、意味を推測して、確認する。この一連の動作で語がそのまま定着すればいいのですが、たいていはそうなりません。1週間後には形も意味も薄れています。これは記憶力の問題ではなく、ふつうの忘却です。
必要な遭遇回数について、研究ごとにかなり幅のある数字が出ています。数回で足りるという報告もあれば、十数回必要だという報告もあります。数字が揃わないのは当然で、語の種類、文脈の情報量、学習者の既存語彙、そして「覚えた」の定義がそれぞれ違うからです。実務的には「一度では足りない、そして必要な回数はあなたが思うより多い」とだけ覚えておけば十分です。
ここから、読書量の話が出てきます。低頻度語に十数回出会うには、かなりの量を読む必要があります。だから多読が推奨されるわけですが、量を確保できない人にとってはこれは処方になりません。量が足りないときは、遭遇を人工的に作るしかありません。
条件その2 — 95〜98%という目安
読解研究の分野では、文章に出てくる語のうち既に知っている語が95%から98%あると、辞書なしで内容が理解でき、かつ残りの語を文脈から学べる、という経験則がよく引かれます。数字に幅があるのは、研究によって「理解」の測り方も対象の文章も違うからで、95%を支持するものも98%を支持するものもあります。ここでは、それを厳密な閾値ではなく目安として扱ってください。
実感に直すと、95%は「1文あたり知らない語が1つ弱」、98%は「2〜3文に1つ」くらいです。ここで多くの人が驚きます。快適に読める文章というのは、ほとんど全部わかる文章なのです。90%だと「10語に1つ知らない語がある」ということで、これはもう読書ではなく解読になります。
自分の素材が何%かを知るのは簡単です。1ページ選んで、知らない語に印をつけ、そのページのおおよその総語数で割ります。5%を超えていたら、その素材は今のあなたには重すぎます。おもしろいかどうかとは別の話です。
難しすぎる文章に当たったとき
いちばんよくある反応は「気合いで読み切る」で、これはほぼ確実に無駄になります。かわりに使える手が三つあります。
- 素材を下げる。同じ話題でやさしい版があるなら、まずそちらを読み、語と背景知識を先に手に入れてから元の素材に戻ります。難易度を下げるのは撤退ではなく、順番の入れ替えです。
- 先に語を仕込む。その文章に出てくる語のうち、頻度の高いものを20語だけ先に見ておくと、既知語率が数%上がって読める側に転ぶことがあります。ここが単語帳が本当に役に立つ数少ない場面のひとつです。
- 読む単位を短くする。段落ではなく1文ずつ扱えば、知らない語の密度が高くても、1文の中では文脈が働く余地があります。文単位の素材が意味を持つのはこの理由です。
遭遇を人工的に繰り返させる
量を確保できないなら、同じ語に出会う機会を自分で作ります。方法はいくつかあります。
- 同じ話題を続けて読む。分野が同じなら語彙も重なるので、遭遇が自然に繰り返されます。ばらばらの話題を読むより、同じ著者・同じジャンルを続けたほうが語彙の定着は速い。
- その日に出会った語を、その日のうちに別の文でもう一度見る。間隔を空ける前に、まず同じ日に2回目を作るほうが安上がりです。
- 出会った語の履歴を残す。何に出会ったか覚えていなければ、2回目が来たことにも気づけません。
- 声に出す。読み上げても、自分で読んでも構いません。音の情報が加わると手がかりが増えます。
Lexi はこの形で作られています。文と語のライブラリが端末の中に入っていて、流れてくる1文の中で知らない語はちょうど1つ。出会った語は日ごとの履歴に残り、統計画面では単語帳ごとの進み具合が見られます。「今日のストーリー」は、その日に読んだ語を使って短い英文を書くので、同じ日のうちに別の文脈でもう一度その語に会えます。これは生成される文章なので、通信が必要な数少ない機能のひとつです。
読書で増える語と、増えない語
読書からいちばん効率よく増えるのは、頻度が中くらいの語です。高頻度語はすでに知っているので伸びしろがなく、極端に低頻度の語は遭遇回数が足りません。真ん中の帯にいる語が、読んでいるだけで増えていきます。
一方、読書だけでは伸びにくいものもあります。綴りは読んでいても書けるようにはなりませんし、発音は文字を見ているだけでは身につきません。語の使い分け、たとえばどの前置詞と一緒に使うか、どういう場面で使うと不自然かといった情報も、受け身の読書では拾いきれないことが多い。これらは意識して別に扱う必要があります。
もうひとつ、読書には有利な性質があります。語は単独ではなく族で増えるということです。develop を知っていれば、development、developer、undeveloped は初めて見ても大部分が読めます。読書はこの族の別の形に自然に出会わせてくれるので、実際に増えている語の数は、印をつけた新出語の数より多くなります。この上乗せぶんは自覚しにくいので、進み方が遅く感じられる原因のひとつでもあります。
そして、読む素材は自分が興味を持てるものにしてください。精神論ではなく、遭遇回数の話です。おもしろくない素材は読む量が伸びず、量が伸びなければ2回目の遭遇も来ません。教材として正しい素材より、実際に読み続けられる素材のほうが、語彙には効きます。
よくある質問
1日どれくらい読めば語彙が増えますか。
時間よりも、既知語率と継続のほうが効きます。1日10分でも、既知語率が95%以上ある素材を毎日読むほうが、週末に2時間だけ難しい記事と格闘するより語彙は増えます。理由は単純で、前者では推測と確認という動作が何十回も起きるのに対し、後者では辞書を引く動作しか起きないからです。まずは毎日開く形を作り、量はそのあとで増やしてください。
知らない語は全部調べたほうがいいですか。
全部調べる必要はありません。読み終えたあとに、話の理解を邪魔した語だけを調べるやり方が実用的です。一度出会っただけで二度と会わない語に時間を使うより、繰り返し出てくるのに引っかかる語に集中したほうが効率がいい。ただし、調べないと決めた語も、次に会ったときには気づけるように、印だけは残しておくといいでしょう。
95%という数字はどこから来たものですか。
第二言語の読解における語彙カバー率の研究群からきた目安で、95%を支持するものと98%を支持するものの両方があります。研究ごとに理解の測り方も素材も違うため、単一の正解として扱うべき数字ではありません。実務的な使い方としては、厳密な閾値ではなく「知らない語が20語に1つを超えたら重すぎる」という粗い判定基準として持っておくのが妥当です。
小説と記事、どちらで読んだほうが語彙は増えますか。
どちらでも増えますが、性質が違います。小説は同じ語彙が繰り返し出てくるので遭遇回数を稼ぎやすく、話の流れが推測を助けます。一方、記事は話題ごとに語彙が入れ替わるので、幅は広がるものの繰り返しは少なくなります。定着を狙うなら同じ著者の長い小説、幅を狙うなら記事、というのが目安です。両方やる必要はなく、続くほうを選んでください。
読んでいるのに語彙が増えている実感がありません。
まず既知語率を数えてみてください。素材が重すぎると、読む動作ではなく調べる動作をしているので、時間の割に増えません。次に、同じ語に2回目、3回目で会えているかを確認します。ばらばらの話題を少しずつ読んでいると、遭遇が一度きりで終わりがちです。それでも実感が出ないときは、増えていないのではなく、増え方が受け身の側からだという可能性もあります。読めるようになった語が、使えるようになるとはかぎりません。
10分だけ、この方法を試す
Lexiは短い英文を1つずつ差し出します。そこに知らない語はちょうど1つ。タップすれば発音記号と意味、もう一度で文全体の訳、どちらも読み上げられます。ライブラリは端末の中にあるので電波がなくても動き、アカウント登録もありません。1日30文、すべての単語帳、すべての語義言語が無料です。